
| 戻る 後編へ 18/2/17 ふたご姫のバレンタイン(前編) (そうか…今日バレンタインだったんだ) レインは自室のベッドでふと思い出した。ここのところ、ふしぎ星の危機やらグレイスストーン探しでゴタゴタしていて、そんなイベントのことなどすっかり忘れていた。 (チョコをあげる相手…) とっさに頭に浮かんだのは、クールで無愛想だけど頼りになる、憎いあんちくしょうの顔だった。 ボッ! シェイドにチョコを渡す―――そう考えただけでレインの顔は真っ赤になった。 (で、でもどうしよう。恥ずかしくってチョコなんか渡せないよ〜) 恥ずかしさのあまり、顔を枕に埋めながら足をバタバタさせるレイン。 (な、なにやってんだろレイン…) 隣では、ファインがそんなレインの奇行に引いていた。 (そ、そうだわ!今まで助けてもらったお礼ってことにすればいいじゃない!そういえばあの時のお礼(24話のこと)も言いそびれたままだったし) そのままお得意の妄想を炸裂させるレイン。 (あんまりお礼の言葉なんは言ってくれなさそうだけど、代わりに態度で…とか。キ…キ…キスなんかしてもらっちゃったりなんかしてなんかして!) 頬を赤く染め、枕を抱きしめながらイヤンイヤンと身悶えるレインは例えようもないほど可愛らしかった。 ロリコンの気がある人間がこの光景を見ていたら、一発KOされていただろう。 「キャーッ!キャーッ!」 「うわぁっ!」 とうとう妄想しつつ奇声まで上げ始めたレインに驚き、ファインはベッドから落っこちた。 ―――――――――――― 「ご、ごめんねファイン、ビックリさせちゃった?」 「う、ううん、大丈夫(ビックリって言うより怖かったよ…)。それより、どうしたのいったい?」 「あ、あのね、バレンタインのチョコを作ろうと思って…」 「そっか、バレンタインのチョコ…」 少し考えてファインは聞いてみた。 「それって、ブライトに?」 「え、誰それ?」 ………………………… 「…だ、誰って…('Д`)」 「や、やだ、冗談よ冗談!(素で忘れてたわ…)。ブライト様じゃないわよ」 「え、じゃあ誰に?」 (うっ…) 当然の質問であるが、レインは答えにつまった。 なぜかファインには「シェイドにチョコをあげる」とは言いたくなかった。 「お、お父様よお父様!」 苦し紛れに答えるレイン。 父親にチョコを渡す想像であんな嬌態を繰り広げていては重度のファザコンだが、幸いファインはそこには突っ込まなかった。 代わりに 「私も作ろうかな…チョコ」 「え、誰に渡すの?」 「えと…自分で食べようかと思って…」 いかにも色気より食い気のファインらしい返答に納得するレイン。 だがファインの本心は違った。彼女もまたシェイドにほのかな恋心を抱いていたのである。 「じゃあ一緒にチョコつくろっか?」 「うん!」 二人はチョコを作るために、お城のキッチンに向かうのだった。 そして、キッチンでチョコ作りに励む二人を盗み見ている男がいた。 誰あろうブライトである。 ブウモの能力、離れた場所にいる相手の姿が見える千里眼でちょうど見ていたのだ。 しかしこの能力、実に恐ろしい物である。 その気になれば、入浴中だろうが着替え中だろうが覗き放題だ。 ブライトがそうしないのは、彼に残された良心が歯止めをかけているのだろうか。 それとも、そんなことも思いつかないくらいバカなのだろうか。 おそらく後者であろうが。 「あ〜疲れた。毎回この能力は疲れるでブモ。しかしこんなときにチョコ作りとは、のんきな奴らでブモ」 のんきに幼女をストーキングしている奴らに言われたくはない。 「行くぞ、ブウモ」 立ち上がり、ブウモに声をかけるブライト。しかし――― 「行くって、どこへでブモ?」 「決まっている、おひさまの国だ」 「な…なぜでブモ?今おひさまの国に行っても、奴らがチョコを作ってるだけで、グレイスストーンの手がかりなんかないでブモ!」 確かにその通りだが、ブライトの思惑は違うところにあった。 「ファインが僕のためにチョコを作ってくれてるんだぞ。受け取りに行かなければ失礼だろうが」 「ブ…ブモ!?」 な・・・なぜ、何をどうしたらそういう結論が出てくるのん? それはいくらなんでも自分に都合の良すぎる解釈やん? ていうかアンタ、むしろ好感度落としてますぜ? そう叫びたいブウモだったが、どうせ言うだけ無駄なのでやめた。 「待っていてくれプリンセスファイン!君の愛に答えるために、光速を越えてマッハで君の元へゆくよ!」 やはりこいつを選んだのは間違いだったのか…全身に言いようのない疲労感を感じながらブウモはついていくのだった。 続く 18/2/24 ふたご姫のバレンタイン(後編) キッチンでチョコ作りに励むファインとレイン。 どうやらレインの方はチョコチップクッキー、ファインの方は生チョコを作るようだ。 だがレインのほうはまともにチョコを作っていたが、ファインのほうに重大な問題があった。 「…ねえファイン、なんでカレー粉を混ぜるの?」 「だってカレー粉ってなんだかチョコに似てるし…」 そう言いながら今度はヨーグルトを鍋にそそぐファイン。 「それにおいしいもの全部ミックスしたら、凄いおいしいものが出来るの決まってるよ!」 他にも焼きそば、とんかつ、うなぎなど、とてもチョコレートの材料とは思えない物を追加するファイン。 というよりチョコを構成する要素が微塵もなかった。 (前にそれやって大失敗したじゃない!注:お汁粉ア・ラ・モードのこと)そう言いたいレインであったが、自分も過去に同じことをやっていたのかと思うと、恥ずかしくて何もいえなかった。 ――――――――― なんだかんだでチョコは完成した。ファインのはチョコとは呼べないが (喜んでもらえるかしら…) レインがそんな風に小さな胸キュンキュンさせながら、ラッピングまで終えたそのときである。 闇の騎士達がキッチンになだれ込んできたのは。 「な…っ!」 突然の事態に驚く二人だが、なにか闇の騎士達の様子がおかしい。 具体的にどうおかしいのかというと、なぜかみんな楽器を手に携えていた。 その意図がまったく読めずに困惑する二人を置いてきぼりにして、整然と隊列を組み、 『美しき青きドナウ』を演奏する闇の騎士達(以下闇の騎士楽団と呼ぶ)。 「フフフフフ、ハハハハハ!」 唖然とする二人の耳に聞こえてくる高笑い。 「この声…」 「ブライト…?」 キッチンに入ってきたのはブライトであった。 ご丁寧に白馬にまたがって。 「ふしぎ星の真の王にしてプリンセスファインの愛の下僕!キングブライト只今参上!」 バカが 白馬で やってきた 「ごめんなさいファイン…こんなとき、どんな顔をしたらいいのかわからないの…」 「笑えばいいと思うよ…ていうかぶっちゃけありえないよ…」 動揺のあまり、違う番組の台詞を口走ってしまう二人。 あまりのことにどうりアクションを取っていいのかわからない二人の前に、なにやらひらひらと舞い降りてくる物があった。 「紙ふぶき…?」 ブライトの演出であろうか、空から紙ふぶきが降ってきた。 二人が上を見上げると… 俺はこんなくだらない仕事をするために生まれてきたんじゃない、とでもいいたげな、理想と現実の狭間で悩む社会人一年生みたいな顔をしながら紙を撒いているブウモが。 「な…」 なにやってんの?と聞きたい二人であったが、頼むから何も聞くんじゃねえ、的なオーラをバリバリ感じて聞くのをやめた。 ブライトは当初の目的、ファインからのチョコを貰うため、馬から下りてファインに歩み寄った。 「やあプリンセスファイン、待たせてしまったかな?」 そうにこやかに話しかけるブライトであるが、予想外の事態の連続で、ファインの頭の中は夢工場ドキドキパニックである。 「えーと…」 どう答えたらいいのかわからないファインはとりあえず、 「…何しに来たの?」 チョコを貰いに行って、女の子からこんな台詞を聞かされたら、再起不能のダメージを負いかねない。 しかし今のブライトには。毛ほどのダメージも与えないようであった。 「ハハハハ、まったく照れ屋さんだなあプリンセスファインは。僕の口からはっきり言わせたいのか?チョコを貰いに来たって」 「いや…そうじゃなくて…('Д`)」 「フフ…それともチョコなんかより自分を食べて欲しいってことなのかな?」 「ハァ?」 事態をまったく理解できないファインをよそに、ブライトはファインの肩に手を置き引き寄せ、キスの体勢に持っていった。 そして演奏を結婚行進曲に切り替える闇の騎士楽団。 一糸乱れぬ演奏ぶりが見事であった。 状況に思考が付いていかず、まったく抵抗できないファイン。 レインも唖然として止めるどころではなかった。 その時である。 「プリンセスファインー!このティオが助けに参りましたぞー!」 ティオ登場である。 どうやってピンチを知ったんだとか、どうやってこんな短時間で駆けつけたんだとか、隠れて見ていたとしか思えないタイミングの良さとか、言いたいことはいろいろあるが、 どれも今更だった。 「うおおおおおー!」 雄叫びを上げながら駆けつけるティオ。しかし――― 「うおっ!?」 コケた。派手に。 その時のことをのちにレインはこう語る。 「実に見事な転びっぷりでした。そもそもなぜ何もないところで転ぶことが出来るのか不思議で仕方ありません。あれはもうコントの域だと思います」 転んだティオはとっさに手を伸ばしたが、これがまずかった。 蓋の開いていたタバスコの瓶(無論ファインが使った)をひっくり返してしまったのである。 瓶の中身を思いっきり顔面に浴びてしまうティオ。 「あ〜あ〜目がぁ〜目がぁ〜!」 タバスコで目が見えなくなったティオは、闇雲に走り回り――― 窓を突き破って城の外に落ちていった。 この間わずか10秒足らず。見事な出オチであった。 ブライトのほうも、あまりに白けきった空気にどうしたらいいのかわからないようだったが――― 「フフ…それともチョコなんかより自分を食べて欲しいってことなのかな?」 どうやら今のはなかったことにして仕切りなおすつもりらしい。 このままファインの唇が奪われてしまうのかと思われたそのとき、 「い…いやぁーっ!」 「ぶべらっ!?」 ファインの肘による打撃がブライトのあごを直撃していた。 肘による攻撃は危険なため、禁止されている格闘技は多い。 しかし、裏を返せばそれだけ有効だということでもある。特にショートレンジにおいては絶大な効果を持つ。 そして怯んだブライトを突き飛ばし、渾身のミドルキック。 いざとなれば足が四本に見えるほどの高速で走るファインである。脚力も半端ではない。 ブライトは吹っ飛び、派手に食器棚に突っ込んだ。 「ちょっとファイン、いくらなんでもやりすぎよ」 「う…だ、だって…」 「ぐっ…」 ビクッ! 今のでどこか切ったのか、頭から血を流しながら立ち上がるブライト。 逆上して襲い掛かってくるかと身構える二人だったが、 ブライトはなんかすげえいい顔して笑っていた。 (打ちどころが悪かったのかな?) そんなことを考えるファインにグッ!と親指を立ててブライトは言った。 「ハハハ、まったくお転婆さんだなあファインは」 「「全然めげてないー!?」」 「大丈夫、僕にはわかってる。君がホントは僕をどれほど愛してるかってことが…」」 「「超ポジティブだこの人ー!?」」 思わずそろってツッコミを入れてしまう二人。 というよりツッコミを入れることしか出来なかった。 「さあファイン、恥ずかしがらなくていいよ。君のチョコを…」 「だ、だめっ!これはブライトにあげる為の物じゃないんだから!」 ズッギャアアーン! なんだか効果音と共に、ブライトの背後に稲妻の落ちる演出が見えたような気がした。 「そ…そんな!嘘だろ!?」 「う、嘘じゃないよ!」 がっくりと膝をつくブライト。 そしてドナドナを演奏しだす闇の騎士楽団。 はっきり言っていらん気遣いだった。 「どうして…どうしてわかってくれないんだ!こんなに愛してるのに!アイラブユーなんだよアイニードユーなんだよアイウオンチュベイベーなんだよトホホー」 (トホホーとか実際に口に出す人初めて見た…) 「他の男に渡すぐらいなら…そんなチョコ、こうしてやる!」 止める間もあらばこそ、ブライトはテーブルの上にあったチョコを手に取ると、思いっきり床に叩き付けた。 バキャッ――― 中のチョコが砕ける音――― 「…それ、レインのチョコ…」 「えっ!?」 そう、ブライトは間違ってレインのチョコを砕いてしまったのである。 しかしそれも無理はなかった。 なにせファインのチョコはまだラッピング前で、単なる異臭を放つ謎の物体であり、チョコと認識することなど不可能だったからだ。 それらしきものは、綺麗にラッピングされたレインのチョコだけだったのだから止むを得まい。 急いでレインが中身を確認すると、やはり見るも無残に粉々になっていた。 「…………………………」 あまりのことに声も出ないレイン。 「レ、レイン?」 「うっ…」 「う?」 「うわぁーん!」 「「ゲッ!?」」 まるで火が付いたかのように泣き出すレイン。実際まだ8歳児なのだから無理もなかった。 そして『あーらーらこーらーら いーけないんだいけないんだ』とわざわざコーラスつきで演奏を始める闇の騎士楽団。たいしたレパートリーの広さである。 「ちょっとブライト、なんとかしてよ!」 「ぼ、僕が!?」 「当たり前でしょ!ブライトのせいなんだから!」 やはり男のサガで泣いている女の子には弱いのか、レインを慰めようとするブライト。 「プリンセスレイ…」 「うわあーん!」 「レイ…」 「うああーん!」 「…………」 「あうっぐすっ、うわーん!」 「………………そ、そうだ、今日はおじい様の3回忌だった!じゃ、そういうことで!」 言うが早いか、脱兎のごとく駆けて行くブライト。ブウモと闇の騎士楽団も後を追って出て行った。 「に…逃げたー!」 どこまでもヘタレな男であった。 「どうしよう、この状況…」 その時だった、一人の少年が入ってきたのは。 「あ…!」 ――――――――― (なんで…こうなっちゃったんだろう) レインはただひたすら悲しかった。 さっきまでチョコを作っている間は幸せな気分でいられただけに、余計にショックは大きかった。 まるで自分の恋心まで粉々になってしまったみたいで…。 そんな泣きじゃくるばかりのレインの頬に何かが触れた。 (ハンカチ…?) ファインが涙を拭いてくれているのか、そう思って目を開けるとそこにいたのは――― 「シェ…シェイド!?」 なぜシェイドがここに!? レインは泣いている所を見られた恥ずかしさと、涙を拭いてくれているシェイドの温もりを感じたせいで真っ赤になった。 「この付近を通りかかったら、ブライトの気球がおひさまの国に向かうのが見えたんでな。気になって見に来たんだ」 そういいながらあたりの惨状を見渡し、 「で、どういう状況なんだこれは?」 シェイドに涙を拭いてもらって、なすがままになっているレインの代わりにファインが答えた 「えーっと、チョコを作ってたら闇の騎士達がやってきて、なぜか楽器を出して演奏を初めて、ブライトが白馬に乗ってやってきて、ブウモが空中から紙ふぶきを撒いてて、ブライトが私にキスしようとしたからエルボーとキックを食らわせて、そしたらブライトがレインのチョコを床に叩きつけて、レインが泣き出して、ブライトにレインを慰めるように言ったらレインをほったらかして帰っちゃったの」 ………………………… 「なあ…それ話し作ってないか?」 「ほ、本当だって!私だって自分でもすっごく嘘っぽいと思うけど本当なんだって!」 (そうか…レインが泣いていたのはブライトにチョコを砕かれたからか) 実はシェイドはレインはブライトのことが好きなのだと思っていた。 レインはさんざんブライト様ブライト様言っていたのだから、そう思うのも無理はあるまい。 だからシェイドの認識は レインがブライトにチョコを送った→ブライトが貰ったチョコを床にたたきつけた→そのショックでレインが泣いていた である。 (ブライトめ…) シェイドの心にブライトに対しての怒りとジェラシーが湧きあがる。 そう、彼は密かにレインのことが好きだったのである。 「え?8歳児相手に?それロリコンじゃん!」というツッコミは勘弁していただきたい。 結局この二人、両思いなのだがそれに気付くのはまだまだ先のことのようだった。 落ち込んでいるレインを見ているとやるせない気持ちになり、思わず砕けたチョコクッキーに手を伸ばすシェイド。 「あ…それもう捨てようと…」 レインは声をかけるが、一口食べてシェイドはつぶやいた。 「美味い」 「ほんと!?」 「ああ」 さっきまでの涙はどこへやら、ぱあっと顔を輝かせるレイン。 「なあレイン、このチョコ、貰ってもいいか?」 「え、でもそれ…」 「捨てるにはもったいない出来だ」 それはレインを慰めようとして言ったのか、それとも自分がレインのチョコを欲しかったからか。 シェイドのポーカーフェイスからはうかがい知ることは出来ないが、恐らく両方だろう。 「じゃ、じゃあちょっと待って!」 どうせなら形だけでも、そう思ってラッピングしなおすレイン。 「はい!」 シェイドにチョコを渡す彼女の顔は本当に嬉しそうだった。 「ああ…ありがとう」 シェイドは言葉すくなにそういうと、後ろを向いた。 それは照れ隠しからであり、この時レインがシェイドの顔を見たら、赤くなっているのがわかったはずだ。 「じゃあ、またな」 「うん!」 (柄にもないことを…) 内心自分の行動に恥ずかしくなりながら去っていくシェイド。 後に残されたのは、(やっぱり作ってよかった…)と潤んだ目でシェイドの背中を見つめるレインと、シェイドとレインがなんか二人の世界を作っちゃってて、その存在を忘れられたファインであった。 余談だが、この時シェイドが持って帰ったチョコは、ミルキーに発見され全て食われてしまったという。 完 |